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神戸地方裁判所 昭和43年(ワ)1408号 判決

原告

丁野久子

ほか二名

被告

丸吉製麺合資会社

ほか四名

主文

一、被告丸吉製麺合資会社、被告魚谷謙一、被告株式会社近畿オートサービス、被告大奥憲三は各自、原告らに対しそれぞれ金一四一万四二八六円及び内金一二六万四二八六円に対する昭和四三年二月一五日より、内金一〇万円に対する同年一〇月二五日より、各完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二、原告らの右被告らに対するその余の請求及び被告鎌倉信子に対する請求を棄却する。

三、訴訟費用の内、第一項記載の被告らとの間で原告らにつき生じた分の二分の一は原告らの各自負担とし、その余は全部右被告らの各自負担とし、被告鎌倉信子と原告らとの間で生じた分は全部原告らの各自負担とする。

四、この判決は、原告らにおいて主文第一項につき、それぞれ仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の申立

一、原告ら

被告らは各自、原告らに対しそれぞれ金二六二万〇三六八円及びその内金二三二万〇三六八円に対する昭和四三年二月一五日より、内金一〇万円に対する同年一〇月二五日より、各完済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする旨の判決並びに仮執行の宣言を求める。

二、被告ら

原告らの各請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする旨の判決を求める。

第二、原告らの請求原因

一、本件事故の発生

訴外丁野雄夫は、昭和四三年二月一一日午前一一時五〇分頃、神戸市東灘区本山町中野琴田筋三二附近の交差点を、軽四輪自動車(六神戸た三二五八号、以下原告車という)を運転して北方より進入通過しようとしたところ、折から西より東進して右交差点に進入した被告丸吉製麺合資会社(以下被告丸吉製麺と略称する)保有、被告魚谷謙一運転の三輪貨物自動車(神戸六に一二六二号)と、南より北進して右交差点に進入した被告株式会社近畿オートサービス(以下被告近畿オートと略称する)保有、被告大奥憲三運転の三輪貨物自動車(神戸四の八三三一号)とが出合頭に衝突し、その結果被告大奥の運転車が原告車に激突し、よつて原告車を運転していた訴外雄夫は肝臓破裂等の重傷を受け、同年同月一四日死亡するに至つた。(以下本件事故という)

二、原告らの地位

原告久子は、右亡雄夫の妻、原告進及び三加子はその子であり、亡雄夫の遺産相続人として各自その三分の一にあたる遺産を相続した。

三、被告らの責任

被告丸吉製麺は、本件事故の当時被告魚谷の運転車を保有し、自己のために運行の用に供していたもの、被告近畿オートは被告大奥の運転車を保有し、自己のために運行の用に供していたものであるから、いずれも自賠法第三条により、被告魚谷、同大奥はいずれも右交差点に進入するに際し左右の安全確認並びに徐行義務を怠り漫然と右交差点に進入した過失により衝突事故を発生させたものであるから、それぞれ民法第七〇九条により、被告鎌倉は被告近畿オートの代表者であると同時に同会社に代りその被用者である被告大奥の監督者たる地位にあつたに拘らず、被告大奥の無免許運転を放任していたのであるから民法第七一五条第二項により、それぞれ本件事故により受けた亡雄夫及び原告らの損害を賠償する義務がある。

四、原告らの損害

(一)  亡雄夫の喪失利益

(1) 亡雄夫は、大工職人として年間八一万六一三〇円(昭和四二年度の収入額)を下らない純収入を得ていたところ、昭和四年一二月六日生れ(事故当時三八才)の健康な男子であつたから、向う二二年間は大工職人として右金額を下らない収入をあげることが可能であつた。そして同人の年間生活費は金一九万二〇〇〇円であるから、これを控除した年額六二万四一三〇円の二二年分よりホフマン式計算方法により年五分の割合による中間利息を控除して右純利得額の事故時における現価を求めると金九九六万一一〇四円となる。

(2) そして、原告らは亡雄夫の遺産相続人として各自その三分の一にあたる金三三二万〇三六八円を承継取得した。

(二)  慰藉料

原告久子は、幼い子供(原告進、当時九才、原告三加子、当時七才)を残して夫に先立たれ、原告進、同三加子は幼くして父を失い、その苦痛は筆舌に尽しがたいものがある。よつてその慰藉料は原告ら各自につき金一〇〇万円が相当である。

(三)  損害の填補

原告らは、被告丸吉製麺及び被告近畿オート加入の各自賠責保険より各自金二〇〇万円宛(計六〇〇万円)の給付を受けたので、前記の各損害額よりこれを控除すると、原告ら各自の損害残額は金二三二万〇三六八円となる。

(四)  弁護士費用

原告らは、被告らがその責任を争い右保険金額以上の支払責任を認めないので、その権利擁護のため弁護士に委任して本訴を提起し、原告訴訟代理人に手数料(着手金)として昭和四三年一〇月一四日各自金一〇万円(計三〇万円)を支払い、さらにその報酬として各自金二〇万円を支払う必要があり、右は本件事故により原告らの受ける損害である。

五、結び

よつて、原告らは各自被告らに対し、それぞれ前記の損害残額及び弁護士費用計二六二万〇三六八円及び内金二三二万〇三六八円(弁護士費用除外)に対する雄夫死亡の翌日である昭和四三年二月一五日より、内金一〇万円(弁護士着手金)に対するその支払日の翌日である同年一〇月二五日より、各完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三、被告らの答弁

一、被告丸吉製麺及び被告魚谷

請求原因一の事故発生事実、請求原因二の相続関係、請求原因三の被告丸吉製麺の責任原因事実、請求原因四(三)の損害填補額はいずれも認めるが、同三の被告魚谷の過失は否認する。請求原因四の損害額はすべて争う。亡雄夫の純収入額は必要経費を控除すると年額六四万四六〇〇円となり、必要生活費は一ケ月二万円を下らない。

二、被告近畿オート及び被告鎌倉

請求原因事実中、丁野雄夫が事故により死亡した事実及び保険による損害填補の事実のみを認め、その他の請求原因事実はすべて否認する。

被告大奥は被告近畿オートの被用者ではなく、訴外横浜タイヤ株式会社の従業員である。

三、被告大奥

(1)  請求原因事実中、損害額のみを争い、その余の事実は認める。

(2)  被告大奥は、原告らに対し金二八万円を支払つた。

第四、原告らの認否

被告大奥の右(2)の弁済は認める。

第五、証拠関係〔略〕

理由

一、本件事故の発生

請求原因一記載の事故発生の事実は、原告らと被告丸吉製麺、被告魚谷、被告大奥との間では争いがなく(被告大奥の訴訟代理人が陳述した答弁書によれば、被告大奥の過失を否認する旨記載されているけれども、第一回口頭弁論における被告大奥の自白を撤回するにつき必要な要件事実の主張はなされていない。)、被告近畿オート及び被告鎌倉との間では、〔証拠略〕により本件事故の発生事実が認められる。

二、原告らの地位

被告近畿オート及び被告鎌倉に対する関係では、〔証拠略〕により請求原因二の事実が認められ、その他の被告との間では各当事者間に争いがない。

三、被告らの責任

(一)  被告丸吉製麺が、本件事故の当時被告魚谷の運転車を保有し、自己のために運行の用に供していたことは当事者間に争いがない。

(二)  被告近畿オートの保有者責任及び被告鎌倉の代位監督者責任につき考察するに、〔証拠略〕を総合すると、被告大奥の運転していた加害自動車は被告近畿オートが兵庫日産自動車株式会社より所有権留保付月賦販売契約により購入したものであるが、その使用の本拠地は近畿オートの所在地として登録を受け、自賠責保険は近畿オートが契約者となつて加入し車体には近畿オートの名称を記入して営業のため運行の用に供していたこと、被告大奥は本件の事故当時は訴外兵庫横浜タイヤ株式会社の尼崎営業所に勤務しており被告近畿オートの従業員ではなかつたこと、しかし被告近畿オート(タイヤの修理販売業)と右兵庫横浜タイヤ尼崎営業所とはタイヤ類の専属的取引関係があつて互いに営業上密接な関係にあつたこと、訴外福島正美は被告近畿オートの従業員であるが被告大奥とは以前から懇意な間柄にあり、かつ被告大奥はタイヤ修理等の技術をもつていたため、訴外福島が私用その他で近畿オートの作業に従事できない場合には臨時に被告大奥をその代役として一日二〇〇〇円程度の日給で雇い近畿オートの作業に従事させており、そのことは近畿オートの現場責任者である宮根某も黙認していたこと、本件事故の当日も被告大奥は訴外福島の依頼により、休日を利用して近畿オートで臨時に働くこととなり来社したのであるが、右福島の依頼により本件加害車を運転して右福島を同人の自宅に送り、再び近畿オートに帰社する途中に本件の事故が発生したものであることが認められ、前掲証拠中右認定に反する部分は措信しがたい。そして以上の事実によれば、本件事故の際における加害自動車に対する被告近畿オートの運行支配は右の人的関係を通じて依然として存在しており、少なくとも客観的、外形的には、被告近畿オートがその保有車を自己のために運行の用に供している際に本件の事故が発生したものと認めるべきであるから、被告近畿オートは自賠法第三条により、本件事故により原告らの受けた損害を賠償する責任があるものといわなければならない。

つぎに、弁論の全趣旨によれば、被告鎌倉信子は被告近畿オートの代表者であることが認められるので、同会社の代表機関としてその従業員である訴外福島正美を監督すべき地位にあつたものというべきであるけれども、右の代表者たる地位の外に会社に代位し(個人的資格において)右同人を具体的現実的に指揮監督すべき地位にあつたことを認むべき証拠はない。ことに本件事故の際にその保有自動車を運転していた被告大奥に対する被告鎌倉本人の代位監督者責任は到底認めることができない。よつて被告鎌倉に対する原告の主張は認容できない。

(三)  被告魚谷および被告大奥の過失の有無につき判断するに、〔証拠略〕を綜合すると、本件の事故現場幅員一〇・三〇米の東西の道路と幅員六・七五米の道路とが交差する十字路であるが交通量は南北道路の方が多かつたこと、右交差点には信号機の設備はなく、四つ角に建物があつて相互に見透しのよくないところであること、被告大奥は無免許で加害自動車を運転し約三〇キロメートルの速度で南より北上して右交差点に差しかかつたのであるが、前記のとおり南北の道路は東西の道路に比べその幅員が明らかに狭いのであるから、右の交差点に進入するについてはその手前で最徐行をして東西道路に対する安全を確認したうえで通過しなければならない注意義務があるのに、これを怠り、漫然と同一速度で交差点に進入した過失により、折柄西方より右交差点に向け東進してきた被告魚谷の運転車を左方約一三メートルの地点においてはじめて発見したが、何らの措置をとる余猶もなく自車の左側と右魚谷車の前部とが激突し、その衝撃により自車が右方に押し出されたため、折柄北方から右交差点に進入してきた訴外丁野雄夫運転の原告車に衝突したものであること、被告魚谷は三輪貨物自動車を運転し時速約四五キロメートルの速度で東進し右交差点に差しかかつたのであるが、自車が広路進行車として南北道路の通行車に優先すること(道交法第三六条三項、第三五条三項)を過信し、右交差点は前認定のとおり交通整理の行なわれていない交差点であり、左右の見透しの不良な個所であるから、既に交差点に入ろうとしている南北車のありうることをも考慮し、一応減速徐行して左右の安全に意を用い、状況に応じ警音器を鳴らす等(道交法第四二条、第五四条)の処置をとり、事故の発生を未然に防止すべき義務(同法第七〇条)があるのに、これを怠り、漫然と右同一速度のまま右交差点に進入したため右の衝突事故が発生したものであること、がそれぞれ認められる。従つて本件事故は被告大奥の重大な右過失が主な原因をなしているとはいえ、被告魚谷にも右のとおり過失があるものといわなければならないので、右被告両名は各自民法第七〇九条により、本件事故のために受けた原告らの損害を賠償しなければならない。(右被告両名間の過失の軽重は相互間における求償権に関係をもつに止まり、原告らに対する関係では同一の責任を負うべきことは、いうまでもない。)

四、原告らの損害

(一)  亡雄夫の喪失利益 七〇七万二八六〇円

〔証拠略〕を綜合して考察すれば、原告(昭和四年一二月六日生、事故当時三八才)は大工職人であつて右岸田弘美を頭として三、四人の同職者と協同で大工工事を請負い、一ケ月平均七万五〇〇〇円を下らない収入を得、その内軽四輪自動車の減価消却費、修理代、燃料費、税金等諸掛、大工用具等右収入をうるための必要経費として一ケ月平均二万円程度の出費を要したことが推認されるので、その純益は金五万五〇〇〇円を下らないものと認むべきところ、亡雄夫は酒、タバコを嗜まず質素々生活をしていたため同人の生活費は一ケ月一万五〇〇〇円と認めるのが相当である。そうすると、同人の純収益は一ケ月四万円となるところ、同人は健康体であつたことが認められるので若し本件事故死を遂げなかつたならば事故日から満六〇才に達するまで向う二一年九ケ月二三日間にわたり右割合による純収益を取得し得たものと推認すべきところ、これを同人の死亡日である昭和四三年二月一四日に一時払を受けるものとして計算すると、事故日である昭和四三年二月一一日より死亡の一四日までの四日分(一ケ月四万円の割合による一ケ年分四八万円を三六五で除した一日当り一三一五円の割合)として金五、二六〇円、昭和四三年二月一五日より昭和六四年一二月五日までの二一年九月一九日分を、月毎係数による新ホフマン式計算方法により年五分の中間利息を控除して右昭和四三年二月一四日現在の現価を求める(その係数を一七六、六九〇〇とする)と金七〇六万七、六〇〇円となり、死亡日までの損害額との合計額は金七〇七万二八六〇円となる。

そして原告らの身分関係は前記二のとおりであるから、原告らは亡雄夫の遺産相続人として右金額の各三分の一にある各自金二三五万七六二〇円の賠償請求権を承継取得するに至つたものと認むべく、他に以上の損害額の認定を覆えすに足りる証拠はない。

(二)  慰藉料 三〇〇万円

〔証拠略〕によれば、同原告(昭和一二年一月生)は夫雄夫との間に生れた原告進(昭和三三年五月生)、原告三加子(昭和三五年九月生)の幼な子二人を残して夫雄夫の悲惨な事故死(肝臓破裂等)に遭い、経済的及び精神的な支柱を失い悲胆のどん底に落し入れられたこと、また原告ら右二児も幼少にして父を失い、将来成長するにつけその悲しみは倍加されるであろうことが推認される。原告ら三名がそのために受け、また将来受けるであろう精神的苦痛に対する原告ら主張の慰藉料額各自一〇〇万円(計三〇〇万円)は最少限度の額として認容すべきものと認める。

五、損益相殺 (残額三七九万二八六〇円)

原告らが、本件事故による前記の損害につき、被告丸吉製麺、被告近畿オート各加入の自賠責保険より各自金二〇〇万円(計六〇〇万円)を受領したこと及び被告大奥より合計二八万円の弁済を受けたことは当事者間に争いがないので、前記四(一)(二)の損害額よりこれを控除するとその残額は金三七九万二八六〇円となり、原告ら各自の相続債権額(その三分の一)は金一二六万四二八六円(円位以下切捨)となる。

六、弁護士費用 四五万円

原告らが弁護士に委任して本訴を提起したことは、事案の性質内容に照らしその権利擁護のため必要やむを得ないものと認められるので、原告らの負担する弁護士費用(着手金及び報酬)の内その相当額は、本件事故による原告らの損害として前記有責の被告らにおいて賠償しなければならないところ、右被告らの賠償すべき相当額は本件事案の性質、内容、賠償認容額及び神戸弁護士会所定の弁護士報酬等の基準額に照らし原告ら各自につき金一五万円(計四五万円)と算定すべきところ、〔証拠略〕によれば、原告らは昭和四三年一〇月二四日原告訴訟代理人に着手金として各自金一〇万円宛(計三〇万円)を支払つたことが認められる。

七、結び

よつて、被告丸吉製麺、被告近畿オート、被告魚谷、被告大奥は各自(不真正連帯)原告ら各自に対し以上の損害額残額金一四一万四二八六円及びその内金一二六万四二八六円に対する昭和四三年二月一五日(雄夫死亡の翌日)より、内金一〇万円(弁護士費用)に対する同年一〇月二五日(支出日の翌日)より各完済まで年五分の割合による遅延損害金を支払うべきものと認め、原告らの本訴請求を右の限度で認容し、その余の請求は理由がないと認め棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条第一項を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 原田久太郎)

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